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資料−3 帝都復興事業誌

第三節 設 計 第一項 設計要項
--- 第四目 耐震耐火に関する考察 ---



        第一 地震動及びその影響
           ◆関東大地震の地震動概要
           ◆設計震度の設定
           ◆橋梁に及ぼす地震動の影響
           ◆橋梁が具備すべき耐震性
        第二 耐火性
           ◆橋梁の火災被害
           ◆橋梁が具備すべき耐火性
        第三 上部構造設計
           ◆支承の耐震設計
           ◆上部構造自体の耐震設計
        第四 下部構造設計
           ◆橋脚の耐震設計
           ◆橋台の耐震設計
           ◆橋台と橋脚のフーチングの連結構造




第一 地震及びその影響


◆関東大地震の地震動概要

  東京および横浜地方は、本邦地震帯中のいわゆる外側地震帯に属し、過去三百年間において、既に慶安、元禄、安政および大正の四大き地震があったのみでなく、地震の頻発すること枚挙にいとまなき程であって、この間に激震として数えるもの16回の多きに及んでいる。

  しかして大正の大地震は、東京帝国大学地震計の記録するところによれば、初期微動約14秒をへて主振動に移り、主要部は約4.5秒の後、全震幅103mmに達して、周期1.5秒を示し、水平加速度は、毎秒約800mmすなわち重力の約一二分の一を記録した。その後震幅はさらに増大して、200mm内外に及んだようであるが、同時に周期もまた増して、約3秒に達しので震動は緩慢になり、加速度は逆に減少するに至った。



◆設計震度の設定

  この記録は、本郷台における震動によれるもので、当該地盤は洪積層でなった比較的堅固なる箇所であるが、東京下町一帯の地質は、一般に軟弱な沖積層から成れるところ多く、震度は山の手に比してはるかに激しく、水平動が毎秒2,500mmすなわち作用力が重力の約四分の一に達したものがあると称せられている。

  横浜地方は震源に接近しているので、東京におけるより震度さらに大で、低地にあっては、毎秒3,500mmの水平加速度に達した。

  これらに上下動の影響あるは、無視し得ざるところである。しかしながら、上下震動の加速度に関しては、その量を正しく知ること全く不可能で、一般に上下震動は、水平震動の約二分の一乃至3分の一と称せられているが一部では震源地附近における上下加速度は、重力加速度を凌駕せしにあらずやと論ぜられたこともある。

  復興事業の施設は、不幸にして将来起こり得べき地震を課そうせねばならぬ。しかしてこれに関し、ここにどの程度の地震動を仮定すべきかは、重要なる問題であって、種々調査の結果、すでに設計仕様書中に示したように、東京及び横浜を通じ、地震作用力は水平動において重力の三分の一、上下動において重力の六分の一と仮定した。



◆橋梁に及ぼす地震動の影響


  橋梁に及ぼす地震作用の影響並びにこれによる被害は、すでに第一節総説において述べたるところであって、一般に地震作用の影響は、(1)急激なる地動の影響、(2)一定時間継続する地動の影響、(3)地盤の不同移動の影響、(4)地震の副影響等の四種に分類することができる。

  急激なる地震の影響は、静止状態にあった構造物が、急激の地動を受けたとするとき、構造物には静止せんとする惰力があるから、構造物はこの惰力に作用せらるる現象であって、一種の衝撃作用をともない、加速度は大であって周期は小である。

  一定時間継続する地動の影響によって、弾性構造物は、強迫震動を惹起すべく、もし地震動の周期と、構造物の固有振動周期とが近似するならば、うなりの現象を呈し、また、この周期が全く同一ならば、共鳴震動を起こすのである。かくのごときは、地震動主要部の中途において加速度のやや減少し、周期ならびに震幅の増大せるときに起こりやすい現象である。

  地盤の不同移動の影響は、間接に構造物に作用する現象であって、下部構造が不同的に上下左右に移動し、あるいは回転することによって、下部構造が自ら破損するとともに、上部構造もまたそのために、歪み捩れ等の変形、ならびに圧力張力等の諸力に作用せられる。

  地震の副影響は、さらに間接の作用であって、地震時の混乱のために、橋梁上の荷重は甚だしく増大し、あるいは火災のために、異常なる火熱に暴露せられる。



◆橋梁が具備すべき耐震性

  橋梁は、これら地震の諸影響によく耐え得るいはゆる耐震構造たるべきは無論であって、震災当時の危急に際し、よく交通を保証し、危害を他に与えざることが緊要である。

  しかしてこれにいかなる程度の耐震性を賦与すべきかは、最も重要なる問題であって、毎秒5,000mm程度の地震に遭遇して、なんらの破損なきがごときは最も完全なるものと言えるであろうが、これに要する工費は莫大であって、かつ数十年間あるいは数百年に一回のみ起こるを予想して、これに完全を期し、莫大の経費を投ずるのは財政の許されぬところであり、また一面において、国民経済上も甚だ不利である。

  ゆえに耐震の目的とするところは、2,000あるいは3,000mm程度の地震にあっても良くこれに抵抗し、挫折、転倒、破壊等を見る恐れなく、交通本来の目的を充分にかつ安全に果たすをもって満足しなければならぬ。復興計画架設の橋梁は、かかる見地から耐震性を定め、這般の大地震のごとき不祥事に再び遭遇することあっても、かの神奈川県下に多く見たるがごとく橋梁の破壊を繰返さるることなきはもとより、充分橋梁としての任務を遂行し得られる構造たらしめたのであった。

  耐震構造の設計に関しては、すでにこの目的のために演繹せられた理論がある。しかしながら、これを橋梁のごとき複雑なる構造物に適用するには、多くの仮定を加える必要があるとともに、実用に適さぜる場合が多いので、用意に求め得る程度のものは計算により、その他面においては、大正大地震におけるがごとき既往の実績から帰納的にこれを決定し、もって努めて遺憾なきを期した。


第二 耐火性


◆橋梁の火災被害

  東京市内の橋梁にあっては、震害の著しきものはほとんどこれを見なかったが、火害を被りたるものは甚だしく多数に上がったことは、すでに第一節において述べたところであって、火災区域にあった橋梁中、火害の皆無であったものは数橋に過ぎなかった。

  これをその程度より区別すると、鉄材、石材、コンクリートのごとき不燃質材料より成るものと、木材のごとき可燃質材料より成るものとの間に、甚だしき差異あるを認めることができる。すなわち後者のごときは、自体が燃焼することにより、たちまち橋梁墜落の不幸を惹起するに反し、前者はたとえ、外面に損傷を被るか、あるいは鉄材に多少の彎曲を見ることがあっても、墜落に至ることはない。



◆橋梁の具備すべき耐火性

  復興計画の橋梁は、仮橋または市の執行した二三の区画整理街路に架設したものを除く以外の本橋には、全ていかなる部分にも木材を使用しなかったから橋梁が燃焼するがごとき恐れはない。ただ、使用材料のうち、コンクリート並びに石材(ことに花崗岩)は、火焔にあってその表面に損傷をきたし、鉄材の彎曲を見ることがあるのみである。

  またここに最も恐るべきは、橋梁上の家財並びに橋梁下停船の燃焼であって、ことに船舶の燃焼はたちまちにして五百度以上の熱を発するために、鉄桁は火熱によって軟化することは避け難い。しかしながら、這般の大震火災のごとき未曾有の大火災の中にあっても、このために鉄桁の墜落せしものは少なく、また一方においては、防火建築の発達して市街地の広大となった今後においては、かくのごとき大火災は起こり得べからざるものと想定し得べく、かつ昔日の構造に比して、新設の橋梁は、その構造巨大であるから、将来の大火災に対して、全く耐火的のもとの認めてさしつかえない。


第三 上部構造設計


◆支承の耐震設計

  橋梁上部構造の震害は、主として下部構造の沈下、移動、あるいは基礎の破壊に基づき、この結果として、橋桁が支端承部より離脱してついに墜落に至ったものが多かったことは、過般の大震災の経験に照らしてまことに明かである。

  したがって、従来の橋桁も、もし支端の構造がさらに堅牢であったならば、その耐震力もさらに増大して震害を少からしめたことは確実であって、普通に設計せられた一般の橋桁、ことに単桁および構桁の類の耐震力は、主として支端構造によって支配せらるるものと思惟することができるから、今後の設計としては、この点は特に注意すべき極めて必要なる事項に属するのである。

  すなわち従来の設計を改良して、固定端は沓材、アンカー等をもって、充分に下部構造に連絡し、橋桁自重に作用する地震力に抵抗するはむろん、下部構造の移動せんとする作用をも阻止し得るに足るの用意を必要とし、また、可動端はその可動量を伸縮その他に要する相当の範囲以内に制限し、この範囲以上に滑脱移動するを防ぎ、同時に上向力に対しても、これがために支端が浮き上がらざるよう、特別の装置を施さねばならぬ。

  支端構造かくのごとき時は、下部構造の破壊するに先立ち、そのわずかな移動のために、橋桁が墜落するがごとき不祥事を防ぐことができる。橋梁の上部下部両構造の連絡緊密なるがゆえに、全体の強度を充分に発揮するを可能ならしむるのである。(詳細は本項第五目第二参照)

  従来設計せられた鋼構橋および径間大なる鋼鈑桁の可動端にローラーを使用するのを通例とするが、ローラーは滑動し易きがゆえに、地震動に対して良好ではない。かつその効力も、普通径間には、特に優秀でないから径間大ならざる限り、ローラーは使用せざるを可とする。



◆上部工自体の耐震設計

  上部構造自体の耐震性に関しては、主桁に地震力を加算し、かつ横構並びに対傾構の強度に地震の影響を考慮しなければならなぬ。路床に鋼製凹鈑を使用してこれを床構に鋲結するときは、橋面の剛性を著しく増加し、水平動に対して良好なる結果を得るのである。もしこれに代わるに鉄筋コンクリート床版をもってする時は、床版と床構とをボールトその他適当の材料により緊密に連絡し、橋面の水平剛性を大ならしむるを可とする。

  主桁は、地震力を加算するにあたり、鈑桁においては、水平に重力の三分の一、垂直に重力の六分の一の力が荷重として作用するとするならば、この荷重による応力は直ちに算定し得べく、拱橋においては、拱肋を放物線と仮定して前記の荷重が拱肋面に作用するとするならばこの荷重による応力は直ちに算定することができる。

  鉄筋コンクリート橋は、その自重極めて大なるがゆえに、地震の作用力もまた見過ごすべからざるところであって、地質が良好でないか、あるいは下部構造が充分でない時は、上部構造に鉄筋コンクリートを使用するのは不利である。やむを得ずこれを使用するときは、自重を軽減した設計を採用せねばならぬ。鉄筋コンクリート無ホ拱にあっては、拱軸線として放物線あるいは欠円の類を選ぶよりは、むしろ変垂曲線のごとき楕円に近き形状をとるときは、拱肋の方向の水平地震荷重に対し、良好なる結果を得るであろう。


第四 下部構造設計


◆橋脚の耐震設計

  地震によって、橋梁の破損、破壊を惹起するのは、主として下部構造の破損、破壊に基因するのであるから、下部構造の設計は、特に注意を要するのである。

 橋脚の地震動による作用力は、(1)上部構造の自重に作用する地震力、(2)橋脚自重に作用する地震力とに分かち得べく、この両者は水平並びに垂直に作用するのであるから、この影響を普通の荷重による影響に加算して、橋脚の安定を検算しなければならぬ。

  しかして橋脚の形状は逆T形になして、基礎底面を充分に広げ、柱に相当する部分は、基礎と連結すること確固たるべく、しかして自重はなるべく軽きを可とするも、そのために上部を柱状となすときは、柱相互の連絡を充分ならしめ、全体が一個の躯体たるべきよう、各部の接続に考慮しなければならぬ。



◆橋台の耐震設計

  橋台に作用する地震力は、(1)上部構造の自重に作用する地震力、(2)橋台自重に作用する地震力、(3)橋台背面の土砂に作用する地震力とに分かち得べく、(1)および(2)は、橋脚の場合と同様に容易にその影響を算定し得るも、(3)はやや複雑であって、その影響を求むることは困難である。

  しかして橋台の転倒は、これを二種に分かち得べく、基礎底面前部の支持充分でないか、あるいはかりに充分であっても、前方に作用する力が大なる時は第3図Aのごとく、橋台頭部は前方に押し出され、また基礎底面の滑動に対する支持力薄弱なる時は、第三図Bのごとく、橋台下部が前方すなわち河中に押し出さるることとなる。

第3図 A
第3図 B


  土砂は元来はなはだ不規則かつ複雑なる性質を有し、その状態は、千変万化、これを簡易に分類して、土砂の影響を的確に決定することは到底不可能であって、一般に使用せられている土圧公式例えば、ランキン、クウロム等公式は、極めて概括的なる仮定のもとになっているからその結果のごときは、直ちにこれを的確となし得ないのである。しかしながら、これらの結果は従来の経験によれば、大体において、安全側にあって危険の感なく、かつ今日他に適法なきをもって、土圧の影響は、前記の諸公式によって、その大要を算定することを普通とする。

  地震時における土圧に関しては、その現象さらに複雑であるが、従来の土圧理論を、普通の土圧に適用するがごとく、地震時においても同一の主旨により、当該土圧公式に地震加速度の影響を挿入するなら、大体の結果を求めることができる。従来の土圧公式を地震時に適用せんとするには、水平動は壁面の前方に、上下動は上方に各々向かうものとし、これらの作用力と、土砂自身の重量との合力をもって、普通時の土砂自身の重量と全く同様に仮想し、すなわちこの合成力に直角なる面を基準面と思惟し、したがって壁面はこれに伴なう角度αだけ傾ける位置に考えるときは、容易に合成力(あるいは合成加速度)に対する土圧力を算定し得る。(第4図参照)

  これによって求めた量は、相当大であるから、これに前記二項の諸力を加算するときは、橋台の底辺を甚だしく大ならしむる必要を生ずるのであるが、一方において、這般の大震災に良く残存せるものの実情を参酌対照して考察するときは実用上最も適当なる形状を定め得るであろう。



◆橋台と橋脚フーチングの連結

  橋台の重量は、なるべく軽く、かつ基礎底面は広きを可とする。普通の重量型および扶壁型等の構造では、敷地の関係その他より基礎底面を大ならしむるに一定の限度あるも、

  もし橋台と橋脚の下部を、一連の床版をもって連結することができれば底面は、充分拡大せられかつ橋台背後の掘り込みを少なくでき、構造の安定並びに工事の施工、そのいずれにも好結果を得る(附図第21参照)。

  またこれと趣を異にし、橋台の水平移動を防止するために、両橋台間あるいは橋台橋脚間において、その下部を、相当の間隔に適当の材料をもって連結するときは、好結果を収め得べく、この方法は東新川橋、本村橋等において採用した。この方法(第7図参照)を採用するには、全川を締切り、あるいは橋台橋脚を同一締切り中に締め切った場合に容易であって、しからざる場合には、棄矢板の類を、基礎の縁辺に施すも、相当の結果を得るであろう。橋台の橋脚の型式並びに図面は第五目下部構造詳細を参照。