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資料−3 帝都復興事業誌

第三節 設 計 第ニ項 型式選定
--- 第一目 一般橋梁型式 ---


         ◆総  論
            ◆橋梁型式の決定素因
            ◆地盤高と桁高の制約
            ◆橋台地面積と橋台の構造型式
            ◆地質と橋梁型式
            ◆環境と橋梁型式
            ◆要  約
         ◆各  論             ◆鋼鈑桁型式             ◆鉄筋コンクリート桁型式             ◆拱橋型式             ◆ラーメン型橋台付橋梁型式             ◆豊海橋・聖橋・三吉橋について




◆総  論


◆橋梁型式の決定素因

  橋梁型式の選定に関しては、種々の条件相錯綜し、標準型のごとき、普遍的妥当性を有する型式は容易に利用し得ざるとこであって、橋梁型式を構成すべき素因は、大略、

(一)地形、(ニ)地質、(三)環境、(四)載荷重、(五)使用材料

に分かち得べく、橋梁の形式は、よくこれらの何れにも適応せねばならぬ。

  しかしてこれらのうち、載荷重並びに使用材料は、すでに定められたものであるに反し、地形、地質、並びに環境は、可変的素因であるから、個々の橋梁の型式を左右するものは、主として後者にあるのである。



◆地盤高による桁高の制約

  東京横浜の焼失区域における架橋地点の地形を見ると、一般に地盤は極めて低くして中等潮位上6尺乃至10尺となるのが普通である。

 しかるに規定せられたる桁下空間限界は、河川揖航より中等潮位上8尺乃至18尺以上を要求し、この空間上に架する橋桁は、桁高3尺以下たること少なく、かつ電車軌道の深さ1尺を加ふるをもって、橋の高さを4尺とすれば、桁高地点地盤と、橋梁中心点高との高低差は、第15図に示すごとく2尺乃至16尺である。

第 15 図

(注記:1尺=30.3cm)


  すなわち橋梁と前後街路を接続するに要する土盛高が10尺に及ぶ場合はしばしば生ずるのであって、本所深川及び横浜では、ことさら然りである。
 その土盛の過大なるは、路面勾配に許容しうる最急勾配をとるも、その影響は数百尺に及び、これに伴って街路沿線の宅地の地盛を必要とし、工費の増大するところ少々ならざるものがある。
  しかしてこの高低差を作るものの主因たる桁下空間は、揖航上減少せしむること不可能であるから、土盛を最小ならしむるには、桁高を減少せしめねばならぬ。しかるに橋梁上部構造中、最も重要なる関係を有する桁高は、これをむやみに減少するときは、撓度を増加し、好ましからぬ結果を与ふるとともに、河川揖航は、橋脚の数少なく橋桁径間の長大なるを望み、桁高はこれに従って増大するが故に、桁高を小ならしむることは困難である。
 かりにこれを小ならしめるとしても桁高は、普通3尺前後であって、減じ得るべき量は僅少であるから、これが土盛に影響するところは極めて僅少である。



◆橋台地面積と橋台の構造型式

  橋台地における工事中使用しうる土地面積の広狭は、ただちに橋台躯体の施工に関係するところにあるが故に、橋梁の型式に大なる影響を及ぼし、橋台地狭隘なるかあるいは交通上充分の工事用地を使用し得ざる時は、拱橋橋台のごとき背面に深く入り込む橋台は、築造不可能であって、河岸地を使用すること僅少なる型式の橋台を用いねばならぬ。
  この場合には、用地の僅少なために、支障物件少なく、工期の迅速を期し得るとともに、工費をして低廉たらしめることができる。

  復興事業の橋梁は、最も急を要するものであるから工事に着手し易きものより架設するの計画をたてたが、着手し易きものは比較的少なく、事業促進上狭隘なる土地を強いて利用するか、あるいは区画整理を待たずして用地買収移転補償の手段を講じたために、橋台に充分の敷地が無いので、
 かかる場合には、施工し易く、かつ工事費の増大するを避けんがために、橋台の河岸地に侵入するを極度に防ぎ得る特殊の橋台を設計したのである。



◆地質と橋梁型式

  地質が橋梁の型式選定に及ぼす影響は甚大であって、橋脚橋台の下部構造の形状並びに上部構造の性質ことに支点の性質を支配する。

 地質硬強ならば、型式は比較的自由に選定し得るも、軟弱なるときは、地盤耐荷力を増大せしむるために地形杭を打ち、井筒によって荷重を深層の硬地盤に支持せしめ、あるいは基礎底面を広くとって、荷重を広面積に分布して、下部構造の沈下転倒を防ぎ、
  上部構造にあっては、もっぱら死荷重を減じて、下部構造に対する負荷を少なくし、支点構造の剛性を去って、可撓可動なさしめねばならぬ。

 しかして軟弱地盤にあっては、井筒又は潜函の構造を用いて、基礎を深層の硬盤に沈定せしむることが最も信頼し得べき工法であるが、市中各所に散在する普通橋梁に、かくのごとき工法を施工することは、工費の許さぬところであるから一般には、もっぱら地形杭を施し、
  この地形杭は、杭の長さ及び密度に自らの限度があって、ことにいたずらに密に打込むことは、実用上かえって不為の結果をもたらすために、杭の大きさ及び密度には、一定の限度を越えぬようにし、基礎底面を広くとって、荷重を分布せしめ、下部構造の安定を期することとした。



◆環境と橋梁型式

 環境に対しては、これに調和する型式を選定すること肝要であるから、環境のいかんにより橋梁に外観並びに意匠を適当に考慮し、美観を必要とする地点にあっては、他の条件が許す限り、拱橋のごときを選んで風致を添えしめた。



◆要  約

  以上の論述を約言すれば、

(一)桁下空間及び基礎根入深は、規定の高さにおさえ、
(ニ)桁高は、でき得る限り低くして、橋台地盛土の量を減ぜしめ、
(三)このために、路面縦断勾配は、でき得る限り急ならしむるも、規定を越えしめず、
(四)橋台用地狭隘ならば、橋台の河岸地内に入るを制限し、
(五)しかし河の中に建造せらるる部分は、決して揖航を阻害すること無く、
(六)地質軟弱ならば、杭を増すよりも、基礎底面を広大にとり、
(七)形態はよく環境と調和して、橋梁美を有らしめよといふにある。

  その関する覊絆、その受くる拘束、まことに複雑であって、種々なる地質、及び土地の種々なる環境によって、橋型は種々に変化するゆえ、型式を自由に選定しうるがごとき地点は甚だ少なく、ここに多種多様の型式を駆使して、その地点に最も適合する設計をたてた。今、復興局において架設せる橋梁の各型式を類別的に図示すると附図26図及び27図のごとくである。



◆各  論


◆鋼鈑桁型式

 第26図の(1)乃至(6)は、鋼鈑桁を主桁とせる各種の橋梁を示し、

(1)は一般的に見る鋼鈑単桁であって、
(2)は径間長き所に架した下路式の函形断面を有する単桁、
(3)は地質良好なるが故に、桁高を少からしめ、かつ桁を経済的ならしめんがため、鋼鈑連続桁を使用した。

(1) 弥勒寺橋
(3) 三原橋

(2) 炭谷橋


(4)は江東地方の地盤低き地点において盛土を少からしむるため桁高を低からしめたる一例であって、単桁の2径間を架する代りに、突桁式構造となし、右径間吊桁は、支間短く、左径間は、右端において負彎曲力率作用するため桁高を減ぜしめることができる。

(4) 松代橋


(5)は(4)と同じ性質を有する3径間の突桁式鋼鈑桁であって、中央径間に吊桁を架し、左右両側鎮径間(注記:アンカー支間)の橋台支点は、負反力のために浮上ることなきやう、各径間の比を定めた。

(5) 本村橋


(6)は(5)と全く同一の突桁式鋼鈑桁であるが、重要幹線であって、しかも地質軟弱な個所であるから、橋台橋脚の下部は、鉄筋コンクリート床版を連続し、両者を一体として、基礎底面を拡大し、安定に資するところ大ならしめた。

(6) 菊川橋


  これに反して(1)から(5)にいたる各橋の下部構造は、ひとしく鉄筋コンクリート工であるけれども、各躯体は、単独にあって、橋脚は逆T字型、橋台は重力型もしくは重量を軽減するために、扶壁を有する擁壁型とした。これらの単独橋台は、安定の許し得る限り、足尖部を河中に出して、橋台背面の河岸地中にあるを僅少たらしめた。

  なほ踵部は相当の長さを有し、これに反して、(6)のごとく橋台橋脚を床版によって連結するU字型下部構造は、ただ基礎底面を拡大して安定を増すのみならず、橋台踵部を省略し得るから、橋台用地を使用すること少なく、あわせて土工量を減じ得ることとなる。

  突桁式鋼鈑桁の支点構造は、両橋脚上並びに吊径間の一端を固定端となし、両橋台上並びに吊径間の他端を可動端とした。この性質より観るも、固定端となれる橋脚が、河床床版によって橋台と続き、強固なる構造となって、良結果を得るのである。



◆鉄筋コンクリート桁型式

(7)乃至(10)は、鉄筋コンクリート桁橋もしくは、これに類似の構造であって、

(7)は4径間にわたる連続T字桁である。地質良好なる個所においてのみ使用し得る型式で、復興局架設橋梁中には、他に類例が無い。

(7) 霊岸橋


  もし地質良好ならずして、橋脚の多少の沈下免れ難きおそれあるときは、(8)のごとく、中央径間に吊桁を配し、全体の連続性を除いた。

(8) 業平橋


(9)及び(10)はそれぞれ2径間及び1径間のラーメン橋梁であって、上下両部の構造は、連続して1個の躯体となっている。かくのごときは、地質良好なりしが故に、たまたま採用せし型式であって、一般的ではない。

(9) 門跡橋
(10) 地蔵橋



◆拱橋型式

  第27図の(11)及び(12)は鉄筋コンクリート無ホ拱であって、(11)はコンクリート表面をそのまま外面に表し、(12)は花崗岩張石を施せる例である。
  拱軸線には、いずれも変垂曲線を用い、鉄筋は(11)にあっては丸かん、(12)にあってはメラン型型鋼を使用した。


(11) 城辺橋



(12) 
常盤橋


(13)及び(15)は鋼鈑にホ肋拱を示し、これらの拱軸線は、欠円もしくは放物線とし、肋材には、彎曲せる鋼鈑桁を、ホ材には鋳鉄を使用した。

(13) 雉子橋
(14) 柳  橋


(15) 江戸橋


(14)に示せる柳橋は、神田川出口にあって橋脚を置くに適せず、しかも相当美観を要するから鋼鈑にホ肋拱に繋材を附して擁壁型橋台上に架した。



◆ラーメン型橋台付橋梁型式

  (16)(17)及び(18)はラーメン型橋台を有する橋梁の各例であって、
・河中に存するから、工事のために橋台地を使用すること甚だ少なく、工事促進上きわめて有効であって、
・ラーメン内部は相当の水深と高さがあるから、通船に支障なく、
・基礎は床版にて連結せられて、底面広く、
・しかして水面上においては拱型を呈し、外観上荘重の感を与え、
・中央径間には、主として鋼鈑桁を使用し、場合によっては、橋台盛土を減少せしめるため、路面勾配に沿って鈑桁を彎曲せしめ、
・これを以ってしても、なお盛土の量多く、河岸道路の交通に支障をきたすがごときは、(18)に示すラーメン桁を使用して、桁高を減少せしめた。
  この主桁は、支援にホを有する台形の桁であって、力学的性質は、ニホ肋拱と同じく、両端の水平桁は単に路床を支持する副桁である。

(16) 海運橋
(17) 神田橋
(18) 菖蒲橋




◆豊海橋・聖橋・三吉橋について

  (19)の豊海橋は、日本橋川の川口に架せられ、その点においては、(14)と同じ性質を有し、かつ周囲には倉庫があり、永代橋の巨姿また近く、外観は荘重にしてしかるべきであるから、フィレンディール型ラーメン構橋を選定した。
 本橋は外的には構橋と同一であるが、内的に普通構橋と異なるのは、格点に剛性を付し、斜材なきが故に、各主材は、直応力とともに彎曲応力及び剪断力に作用せらるる点である。



(20)の聖橋は、複合橋にして、中央径間に、型鋼を鉄筋とせる鉄筋コンクリート無ホ拱を配し、両側電車線上に鋼鈑桁を架し、しかしてこれらの接続に小径間の鉄筋コンクリートラーメンを附加したものである。

(20) 聖  橋


  この他、型式としては鋼鈑単桁であるが、河川の三つ又になった所に三角形の橋脚をたて、三方より渡れるように作った三吉橋のごとき特殊なものもある。