ver.000805

資料−4 帝都復興事業に就いて




        1. 震害調査の概括並びに橋梁設計の方針
           ◆震害調査の概括
           ◆耐震設計の要点
           ◆設計荷重
        2. 復興局で施工すべき東京市の橋梁とその工費
           ◆隅田川6大橋について
           ◆隅田川以外の主要橋梁について
           ◆橋長・工事費など
        3. 橋梁桁下の空間




1. 震害調査の概括並びに橋梁設計の方針


◆震害調査の概括

  昨年9月1日の地震により東京市の橋梁が受けました震害は、極めてわずかでありました。これは、東京における地震の震度が、比較的小さかったことと、橋梁の工事が比較的入念にできていたことによるものと考えられます。ただ地震にともなう火災のために、幾多の橋梁が焼失したことは、遺憾にたえない次第であります。

 先般の地震が橋梁に対して、いかなる破壊的作用を与えたかということは、東京よりも地震が大きかった地方、すなわち湘南および房総の地方における橋梁において考察するのが肝要であって、これらの地方における震害を概観して見ますと、その破壊状態は大体において、2つに大別することができると思われます。

  第1は橋台橋脚の破壊でありまして、この部類には橋台、橋脚が地面に近いところで切断せられて移動したり、滑り落ちたり、また上部が前後に転倒したものや、基礎工事が不充分であったために傾斜したものがあります。

 第2は、桁の両端の構造の不完全によるものでありまして、この部類には桁端が滑ったり、多少浮き上がった時に、ローラーが転げ落ちたようなものがあります。

  拱橋が比較的著しい震害を受けなかったことは、特に留意する価値があるものと考えられます。
  もとよりその他にも特殊な破壊の現象がないではないが、右の2つがまづ今回の橋梁被害の要点でありましょう。


◆耐震設計の要点

  したがって今回の地震によって与えられた実物教訓から考えますと、耐震的橋梁の設計上の要点としては、

  第1に基礎工事、橋台、橋脚の設計に注意して、傾斜したり、滑ったりしない工夫をなし、基礎が不同沈下をしないようにすることが肝要であり。これがためには広き面積を有する基礎を造っておくことが、最も有利であり、また橋台、橋脚等の継ぎ目には、鉄骨または鉄筋を入れて置くことが安全であると存じます。

 また、橋梁の型式から申しても地質の良い所には拱橋のごときを用いるとか、また普通の場合に単桁を架設するにしても、両端の径間にラーメンを用い、このラーメンが中央の径間の支保物になるようにするのがよろしかろうと存じます。

  こんなやり方の構造物は、地震に対して比較的有利なるため、損害が少なくかった例は多く見受けるところでありました。

 構造上拱橋になると、橋台の基礎が大きくなり、バッキングの掘り込みがかなり大きくなりますが、3径間を用いてその両端の径間をラーメンにしたものは、その掘り込みが少なくてすみますから、東京のような雑踏のところには、後者を用いる方が施工上はなはだ有利であると考えます。

  第2は桁端の設計でありますが、単桁においては従来一端を可動とし、他端を固定端としてありまして、これまでアップリフチングのことは、あまり考慮しないのが、通例でありましたから、かくのごとき結果を生じたろうと存じます。
 したがってその両端の設計につき相当に工夫しますれば、これを解決するのは必ずしも困難ではないと思います。今度の設計におきましては、これらのことを注意してあるつもりであります。

  前述のような見地から橋梁の標準型としては、附図第9号(左図をクリックするとフルサイズの図を閲覧できます)に示すような色々なものを採用することといたしました。



◆設計荷重

設計荷重としては、
  1. 群集に対して     186kg/u
  2. 電車に対して     27.2ポンドのボギー型
  3. トラックに対して 13.6ポンド
  4. ローラーに対して 13.6ポンド
  5. 衝撃係数はiを係数、Lを径間(m)とすれば、
       鋼橋に対して      i=46/(L+92)
       コンクリート橋に対して i=30/(L+92)
を採ることといたしました。

 地震に対しては水平力として重力による加速度の3分の1の震度を上限とし、上下動に対して同じく6分の1を限度とし、これらの影響は主として桁の横綾構、桁の支点および橋台橋脚の安定度の算定上考慮することとしました。なお拱橋にありましてはリブの最大応力も、一応これによってチェックすることとしております。




2. 復興局が施工すべき東京市の橋梁および工費


◆隅田川6大橋について

  この度の復興事業にともない、復興局で施工する橋梁の数は、幅員22m以上の路線にあるもの118、運河の改修にともない架設を要すべきもの18、合計136橋であります。

  その中で工事上最も重きをなしているものは、何と言っても隅田川の6大橋、すなわち相生、永代の2橋と先般市民諸君の投票の結果、橋名の定められました清洲、蔵前、駒形、言問の4橋でありましょう。橋梁費の全額は約3400万円であって、その約3分の1はこの6大橋のために費やされるはずであります。吾妻橋、厩橋等ももうだいぶ古くなって持ちそうもありませんので、いずれこれも架け替えることになるでしょう。されば隅田川にはだいぶ新しき橋を架けるから橋梁の型式も全体の調和に注意して、なるべく美観を呈せしめたいと考えております。

  しかし大川の下流から本所深川にかけては、一般に地盤が軟弱であり土地も低く、なお相当に地震のことも考えなくてはならぬ有様でありますから、気持ちのよい橋を架けるには少なくとも基礎工事をよほど入念にしなくてはなりません。したがって、永代や清洲に対しては、特殊の基礎工事を施工することとなっております。

  これは大して変わっているというわけでもありませんが、エアー・ロックを作り、圧搾空気を用いて井筒工を施行するのであります。ただ今日まで我国では圧搾空気の利用が甚だ少なく、鴨緑江などでこれを行ったこともありますが、かなり長時日を要しております。しかるに米国ではご承知のとおり圧搾空気の利用法ははなはだ盛んでありまして、永代の井筒のごときはわすかに6ヶ月で施工すると言っておりますから、ファウンデーション・コンパニーから技師を雇い入れることと致し、上部および下部構造とも設計の方は当方にて致しますが、米国人をわざわざ雇うに及ぶまいではないかとおっしゃる人もあろうと存じますから、ちょっと私の信ずるところを申しあげたいと存じます。

  これには私は以前あるところで申述べたものを引用する方が便利でありますから、それをお許しを願うことと致します。
              
(引用文略)

  この中にある「試験的に外国の技師に来てもらって学ぶべきは充分学ぶ」という説が、米国のエキスパートに来てもらった理由で、もし出来るならば今度のごとき好機会は少ないから、ドイツあたりからも来てやってもらって見るのもよいと存じますけれども、種々の事情がありますから、そう勝手には参りませぬのであります。
  米国技師が来て建築した丸ビルビルディングが、地震に大破損したのは、むしろ設計の拙劣に起因すべきものであって、あの当時の米国人がやった手際のよい施工法が、その後の日本人のする建築の施工法を充分改良するに力あったことは、無視することの出来ぬものであるのを、感じぬ人は無かろうと存じます。



◆隅田川以外の主要橋梁

  さて本論に戻りますが、隅田川以外の橋梁で特殊なものは、聖橋と九段坂に新設せらるべき陸橋でありましょう。これらの外観は附図第10号および第2号に示したようなものであります。
  また都心付近にあるものとしては、新江戸橋や東京駅の裏の槇町線に面する新八重洲橋などが、かなり一般の注意を惹くことであろうと思います。

附図第−10号



◆橋長・工事費など

  つぎに橋の長さは、隅田川橋梁が145mから182m、聖橋が約80m、九段陸橋が約160m、その他のものは概ね運河に架せられる関係上、47m、40m、33m級のものと、それ以下のものとであります。

  ついでに申しあげますが、この他に市の方では22m未満の補助線の橋と、復興局が手をつけない路線を橋とを架けることになっておりまして、その数は約330、その工事費は約2800万円の多額に上っております。なお復興局でも前述の186の他に区画整理にともない役30の小橋梁を架設いたしますから、結局東京では総計約500ほどの橋が架かることとなり、その費用の全額は約6200万円を算することとなります。

  当局で架ける橋梁工費の単価は、隅田川橋梁1面坪当たり約1500円、その他の橋梁は同じく約1000円であります。

  なお、材料や橋桁その他の製作について一言しますと、上記の全工事に要すべき材料は大略鋼材4万トン、砂利約五万坪、砂2万5千坪、セメント40万樽でありますが、これらはほとんど全部内地製品で間に合わす考えであります。
 また橋桁の製作工業も鉄道事業の発達とともに最近10年間に著しき発達をなし、1年間ゆうに67万トンの製作能力を有しておりますから、5年間にこれくらいの製作は極めて容易なことであろう存じます。




3. 橋梁桁下の空間


  このことにつきましては、むしろ運河の方で申述べるのが至当であるかも知れませんが、便宜上ここで申上げること致します。

  大正10年5月13日、内閣において認可公告になりました東京都市計画事業中河川運河の部に、次のようなことが載っております。

  第1 河川、運河の等級および幅員は左記の標準による
    (1) 1等      60間以上
    (2) 2等      30間以上
    (3)  3等   第1類 26間以上
          第2類 22間以上
    (4)  4等  第1類 18間以上
          第2類 14間以上
          第3類 10間以上
    (5) 等外     10間未満
  第2 河川、運河の深度は左の標準を下ることを得ず
    (1) 1等      零点下15尺
    (2) 2等     零点下 7尺
    (5)  3等 第1類  零点下 6尺
          第2類  同上
        (6)  4等 第1類
         第2類  零点下 4尺
         第3類  零点下 3尺
    (5)等外      零点下 2尺
  第3 河川、運河に橋梁を架設する場合には水面より橋桁最下端までの高
     および径間は左の標準による
    1、高     零点上14尺以上
    2、径間    27尺以上
  第4 本設計の零点とは霊岸島水位基準零尺をいう
  第5 特別の事由ある場合においては都市計画東京地方委員会議を経て
     前各項の規程によらざることを得
  上記中第3の事項が、桁下の空間を指定したものあります。むろん船の方から申しますと、この限界は大きなほどよいけれども、そう大きくすると下町の土地は全体に低いから、橋台取付けの所で急に7、8尺も上げなくてはならな区なります。それですから、いずれの川にも太鼓橋のようなものを架けなくてはなりません、

  一方橋上を通るトラフィックも、非常な量でありまして、橋毎に急な勾配を通らなくてはなりない様では甚だ迷惑なことになります。ことに本所深川の方は一般に地盤が低いから、橋を高くすると、道は常に上がったり下ったりする不便が、特に甚だしいのであります。

 また他方から考えますと船の方では限界に少し無理と思うほど、積荷をしてまいりますものですから、大きくしてもその習慣は矯正することができずして、また前同様無理な積荷をしてまいり、何時までも同様のことを繰返しますから、これらに対しては14尺15尺ということは問題になりませんと思いますが、ただ空船の船足が浮いたときに、満潮でも通れる様にすることが必要であります。

  それらの点を考慮致して、以上の限界を定めたわけでありましょう。そこでこの度この空間のことが問題となりまして、関係の諸官衙とご協議申上げたのでありますが、いまだ決定には至りません。前に申上げた都市計画事業の公告を重んじ、大体左記のようにしたらいかがかと考えております。

 
橋梁の桁下空間限界に関する標準


1. 荒川および荒川派川の架橋に当たりては、橋桁下端における高さ東京湾中等潮位上5.5m(霊岸島水位基標零点上6.612m)以上、幅16.4m以上の空間を1個所、また幅10m以上の空間2箇所以上を存置せしむることを要す。
  ただし、間隔4..0m以上に配置せられたる吊床桁は、高さ1.2mを限り上記の限界内に入ることを得。




2. 小名木川の架橋に当たりては、橋桁の下端において高さ東京湾中等潮位上4.1m(霊岸島水位基標零点上5.212m)以上、幅8.2m以上の空間1個所以上を存置せしむることを要す。



3. 日本橋川、神田川、亀島川、京橋川、桜川の架橋に当たりては、橋桁下端において高さ東京湾中等潮位上3.5m(霊岸島推移基標零点上4..612m)以上、幅8.2m以上の空間1箇所以上を存置せしめることを要す。



4. 築地川、楓川、外濠、汐留川、箱崎川、横十間川、大島川、大島川西支川、大横川、大横川南支川、油堀川、竪川、源森川、北十間川、仙台堀川、汐濱川、中の川、濱町川、龍閑川、東堀留川、新川、三十間堀川、古川、山谷堀川、須賀堀川の架橋に当たりては、橋桁下端において高さ東京湾中等潮位上3.2m(霊岸島推移基標零点上4..312m)以上、幅8.2m以上の空間1箇所以上を存置せしめることを要す。



5. 五間堀川、六間堀川、曳舟川の架橋に当たりては、橋桁下端において高さ東京湾中等潮位上2.5m(霊岸島水位基標零点上3.613m)以上、幅8.2m以上の空間1箇所以上を存置せしめることを要す。



(参項)東京湾中等潮位は参謀本部水準基面と同高にして、霊岸島水位基標零点上1.112mに当たります。


 この基準によると隅田川辺りでは1箇所東京湾中等潮位上5.5m、幅16.4mを有する空間を取ることになりますが、もし2箇所以上にかかる高さの空間を設けますれば、1箇所の幅は10m以上あればよいのであります。
  橋梁の吊材は1.2mまでこの限界内に入り下って差し支えないが、吊材間の最小のクリアランスは、幅4..0m以上なくてはならないというのであります。

  または、市内その他の重要なる河川では、河川により東京湾中等潮位上3.2mの高さを有し、幅8.2mを有する空間を存すべしということとなりました。これより高き積荷をしてきたものは、潮の引くのを待つ必要があることとなります。