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資料−4 帝都復興事業に就いて




        4. 橋梁の設計および型式
           ◆上路型式と下路型式の得失
           ◆取付道路幅員と橋梁部幅員の関係
           ◆隅田川右岸・左岸地域の地質概要と橋梁型式の選定
           ◆隅田川筋橋梁=地質概要と下部型式の選定
           ◆隅田川筋橋梁=上部型式の選定
           ◆親柱・高欄のデザイン




4. 橋梁の設計および型式


◆上路型式と下路型式の得失

  全体橋は道路の一部であります。その点から申しますと橋の上を通るとき、ここに橋ありという特別な感じを起こさせず、自分は橋の上を通ったのか如何かを意識することなしに、通り過ぎ得るのがよいと言う人もあります。これもまた大いに理屈のあることと存じます。

  そうすると特別な装飾をしたり、種々な彫刻を立てて見たりするのは、あまり適当なこととは言われません。例えばパリには揖目名アレキサンダー第3世という橋がありますが、あれはその時の付近が博覧会場であって、いわゆる有平糖のような一時的の建築ができましたが、それとの調和もあって金箔をつけたようなものを作り上げたのだそうであります。それでそれらの臨時建築物が取払われた今日では、パリのあの場所でも幾分不調和に感じられてきましたためか、今日これに対して良い感じを持っている人は少ないようであります。ことに東京のような所ではとてもああ言う橋は調和できないと思いますから、堅実な見飽きのないむしろ平凡なものを造るのがよろしかろうと存じます。

  この趣旨から申しますと皆デッキ型のものがよろしいのであります。鉄構造が桁の上にでてきますといかに苦心しても、ぎこちない感じを起こさずに済むということは甚だ難しいことと考えます。しかし隅田川の永代、清洲のようなものになるとスルーにするより仕方がないから、どうしても鉄構造が路面の上部に出張ってまいりますので、これらのものについてはなお研究するの必要があろうかと思います。

  かかる次第で隅田川以外の橋は、なるべくその主桁が路面上部に出ぬようにいたしました。この場合に前述のごとき桁下限界もありますし、前後の街路との取付けの具合などもありますから、径間は拱型のものでは33m、単桁のおのでは、まず18m位を限度とする必要が生じてくるのであります。したがって改修後の神田川筋には、2径間または3径間のものを架け、江戸橋(路幅44m)や新八重洲橋には、2径間のものを架設することになるだろうと思います。
  それらの型式は前の附図第9号でご覧を願います。




◆取付道路幅員と橋梁部幅員の関係

  橋幅は、従来はこれを連結する道路より狭いのが通例のようであります。橋の上では自動車その他のパーキングがないから、それだけ橋幅は狭くても済むという人もありますが、

  一方から考えますと両側の各路線をひとつひとつ、橋で連絡する訳にまいりませんから、橋のあるところへどうしても交通を集めるようになり、その混雑をきたすもので、とくに何か付近に群集が集まるような機会には、橋が狭いのでなかなか交通できないというような現象を呈する状態であるから、むしろ広い方がよいと申す人もあります。

  街路構造令によりますと、長さ30間未満の橋は路幅と同じく、30間以上のものは3分の2以上となっておりますから、この度架ける橋も大体この標準にしたがい、30間以内のものは有効幅員は前後の路幅と同等にし、聖橋、隅田川上の諸橋のごときは3分の2以上にしてあります。




◆隅田川右岸・左岸地域の地質概要と橋梁型式の選定

  東京下町の地質は、当局においても現に40箇所以上のボーリングをして見ましたが、その結果によりますと、神田川筋および外濠の印刷局裏より、日本橋附近八重洲橋附近をへて木挽町方面に至るあいだは、比較的良好でありますが、その他の部分および大川筋、本所深川方面は、一帯に軟弱な地質であることが分かりました。

  これらの部分に対する型式の選定には、場所柄、地質および施工上の便宜を充分考える必要がありますと同時に、下部構造はあるいはスプレッド・ファンデーションとし、あるいは井筒を下げるようにいたしました。




◆隅田川筋橋梁=地質概要と下部型式の選定

  隅田川の橋梁について申上げますが、隅田川筋の地質を見ますと、附図第12号(左図をクリックするとフルサイズの図を閲覧できます)に示すようでありましてこの図によりて明らかなように、吾妻橋と厩橋の中間、すなわち駒形橋附近では水底から10尺位の所に比較的良い砂礫層があり、大川筋ではまず一番良い所と思われますが、その附近を境としまして、上流言問橋と下流新大橋から清洲橋架橋地点の方に向かいまして、著しく地質が軟弱となって、永代橋附近が最も甚だしく、平均干潮面下100尺も下らなくては良い地質に達しないという次第であります。それからまた相生橋附近になるとまた大分良くなっております。

  そこでこれらの地質に適応せしむるような橋を架けねばなりなせん。ことに地質の悪いところは、荷重の影響を1ヶ所に集中させる方が得策である、言いかえれば施工の便利なる橋脚をなるべく大きくして、力を多くこれに持たせ、両側の橋梁は軽易な構造で済ませるのが良いと考えまして、隅田川下流の方には主にかような条件に適する型式を選びたいと思っておりますが、

  蔵前辺りは地盤もよろしいのですから、なるべくならば、下路式(注記:附図13に照らして上路式の誤り)の連続せる拱橋を架けたらどうかと思っております。

 いずれにしろご承知の通り隅田川の全幅間は145mから182mありまして、この度前記7大橋が改築、もしくは新築され、残るものは新大橋、両国橋位のものとなるかと存ぜられますから、これらの橋梁には多大な苦心を致すことが当然であろうと存じます。

  そこで下部構造の方から申しますと永代、清洲などは、是非井筒を用いる必要があると思い、色々考えました結果工事を確実するという点から、この2橋に対しては、前述の通り圧搾空気潜函工法を採用して、潜函を干潮面下8、90尺の所まで沈下せしめ、その躯体はできれば、中空としておく考えであります。

  その他近々基礎工事に着手することとなっておりますものは、相生橋と駒形橋とでありますが、相生橋は場所柄色々考えました結果、7径間の鉄桁を架設することとしておりますが、その橋脚は各4本のウエルから成っておりまして、これを確実に最も速やかに施工せしむるため、ラッカワンナのシートパイルを使って、川底下39尺位まで掘下げをなし、必要に応じてその下に杭打ちを施し、その上に鉄の骨組を挿入してコンクリート工をなす方法を試みたいと思っております。この方法はとにかく新しい試みでありますから、最初4本ほどやって見て、その成績によってその他のものを、引続き進行施工せしめる考えであります。

  次ぎに駒形橋は、中央に245フィートの鋼拱を架し、その両側に99フィート径間の鉄筋コンクリート拱を各1径間あて架設する計画であって、橋脚の基礎工はまずシートパイルで締切をなし、川底の泥土を取除き、砂礫層に相当深さまで適当なる杭打工をなし、その上にコンクリートの橋脚を築造することとしておりますが、その杭打工の成績並びに試験荷重の結果によりましては、あるいは相当の井筒工を施すこととなるかも知れません。

  その他隅田川橋梁としては上流に言問橋があります。これに対しては地質検査の結果から判断しまして、沈井工法を施す必要があるものと思われますが、いかなる方法によるのが最もよいかということはただ今なお攻究中であります。




◆隅田川筋橋梁=上部型式の選定

  上部構造につきましては、特に目に立ちまするものでありますから種々考究しまして、10数種の型式を設計いたして見ました。それには外国の例をそのまま採るということも、あまり感心したことではないと存じ、これまであまり例の少なきようなもろをと考えましたが、風変りのものが無論そう沢山あるはずはありませんし、強いて変えればかえって変なものにまってしまうところがありますから、その中からやや物になりそうなものを選んだのが、附図第13号のごときものであります。

  ことにタイドアーチとか、その他拱型のものはなかなか数が多いが、インバーテッド・アーチ型またはサスペンション式の、曲り方が上方に曲った型のものは少ないから、特にその様なのを考えて見た次第であります。

  しかし前に申上げた通り、鉄製構造で美術的のものをこしらえるということは最も難しく、ことに日本の様に建物の低い所で、高い鳥篭のような鉄構ができましては、目障りであり不快の感を致させることになりかも知れませんから、その取捨についてなお考慮中であります。

 附図第13号におきまして、その1及びその2はいわゆるインバーテッド・アーチのカンテレバー式吊橋として考案したのであります。
  その1に示したものは比較的男性的な気分を持っている点が面白いと思います。これをその2のものに対照して見て、特にそういう感じが起こるように思われますが、皆様の感じはいかなるものでありましょうか。





 その3のものはバランスドアーチを下路式にして見たものでありまして、これはやや風変わりな型式であるが、余り評判がよくないようであります。



  その4は極めて平凡な型式で、いわゆる突桁式繋拱であります。またその5はこれを構としないでソリッドリブにしたものでありますが、ご承知の通りソリッドリブの構造物は、格点の剛性にともなう第2応力の影響を特に考慮する必要がなく、また部材の弱点が少ないため、寿命が長いという利益があります。もっともこの型式を採用しますと、運搬およびエレクションの際一部材の重量が比較的に大きくなるので、構式タイドアーチの一特長を失うこととなるのでありますが、少しの不便はあるとしても、結局丈夫なものの方が万全の策であると考えます。





  その6はケルンに架せられた吊橋型のもので、補剛桁には鈑桁を使用したものであります。



 その8は極めて普通なる無難のものでありますから、蔵前や言問辺りに架けてみたいと思っております。



  その他その7およびその9は駒形橋、および相生橋に対する実施設計図であります。
  相生橋は突桁式の鈑桁を連続して架設するものであります。相生橋はご承知の通り海岸近くのことでありますから、一部錆びた場合とか将来改築する場合に便利の様に、また永代橋附近から見て天空の眺めを邪魔しない様にという考えから、この様な構造を選んだ次第であります。








◆親柱・高欄のデザイン

  親柱欄干その他につきましても、なるべく目障りにならぬ様なものをこしらえたいと思い、ただ今建築の技師で特にこの方に優秀な人に頼みまして設計中であります。その2、3は附図第14号(左図をクリックするとフルサイズの図を閲覧できます)の様なものでありますが、いずれにしても数が多いものでありますから、これらにつき一般から募集をいたそうと存じております。