◆◆◆ 桜橋は、台東区今戸一丁目と墨田区向島二丁目との間で、隅田川両岸の隅田公園を結ぶ歩行者専用橋であり、公園の一部として架橋されたものである。創架は昭和60年、台東区と墨田区が協力して架橋し、管理は、両区協力の上で台東区があたっている。 左岸向島は、江戸市中を水害から守る墨田堤(墨堤)のあったところである。享保年間から桜が植えられ、文人、墨客が競って訪れた江戸随一の花見の名所であり、その様子は多くの浮世絵や錦絵に描かれている。橋名は、「長堤十里花の雲」と賞賛された桜によるものである。 平面形状はX型のユニークなものである。離れた位置からでは、3径間の桁橋に見えるだけで、平面形状の面白さは感じられない。しかし、近づくと、強い曲率の曲線桁が橋脚上で収斂して河岸に向かって分離していく様子や、内側に傾斜する高欄や橋灯などが、ダイナミックな立体的を感じさせる。橋体は黄色の塗装であり、明るく軽やかな橋である。
◆◆◆ 本橋は、カミソリ堤防といわれて悪評の高い鉄筋コンクリート壁=高潮護岸に風穴を開けた橋として記憶されるべきである。 架橋の計画にあたり、墨堤のあるべき姿が論じられた。高潮護岸に隔てられた隅田川を、「春のうららの・・・・・・」と歌われた昔に返す方策が論じられたわけである。ここから、高潮護岸のあるべき姿へと議論が発展した。 橋の前後150mの区間の高潮護岸が撤去され、隅田川の水辺近くに降りることができるように、緩傾斜堤防、親水テラスが整備された。この橋は、水辺への接近を拒絶する河川管理から、水辺に集い、楽しめる管理への転換を象徴的に示している。 本橋周辺は、花見、レガッタ、花火など川のイベントのメッカになっている。開放的な橋上や緩傾斜堤防の階段、親水テラスのベンチなどでは、川面を眺める人、かもめとたわむれる人、カラオケに興じる一団など、水辺空間を存分に楽しんでいる。 ◆◆◆ 橋面舗装は、白を基調に黒を配置した自然石の舗装で、明るく落ちついて仕上がりとなっている。緩傾斜堤防は、隅田公園の延長のように、芝生や自然石で斜面と起伏を生かしている。テラスの部分には、隅田川の水を引きこんだ池がある。水草が植えられ、子供でも隅田川の水に手足を浸せるようになっている。 夜間景を重視して照明設計がなされたことも、この橋の特徴である。高欄は透明な特殊ガラスにして、橋を広く見せると同時に、夜間には手すりに内蔵した照明の灯りが、ガラスから川面におちるようになっている。この手すりの灯りと傾斜した橋灯が橋面を明るく照明している。また、橋灯の下端にはスポットライトがあって、主桁外側の曲面を強調して、昼間以上にダイナミックな立体感を際立たせている。夜もまた、楽しい橋である。